日常

昔好きだった人、そして昔好きだった曲。

音楽を聴くとふと、
過去の思い出が甦るのはなぜでしょうか。

映画や小説ではそうはならないし、
お笑いライブを観ても
記憶が甦ることは少ないでしょう。

音楽だけが不意に
忘れていた記憶を思いださせるのは、

きっとその曲を聴きながら
当時の景色を心に焼き付けたからだろうし、
自分の持ち得る感性を捧げて
何度も聴いたからでしょうね。

あの頃、
好きだった人とヒロインを重ねて
恋煩いながら聴いた曲、

試験会場までの道のりで、
臆病な自分を奮い立たせるために
ひとりイヤフォンで聴いた曲、

悔しくて、悲しくて、泣きながら
すがるように聴き続けた曲。

そういえば、

イヤフォンって悲しいですよね。

イヤフォンは孤独な時以外は付けないものです。

その曲が言うことをひとりで信じて
その曲を信じる自分も信じた、
あの祈りと救われない哀しみ。

僕たちはみな寂しくて孤独です。

誰しもが、そのとき聴いていた曲に
ありったけの感性という祈りを捧げ、
いつしか曲に心の断片が残ったまま大人になっていったのでしょう。

僕たちは音楽に、既知を求めます。
何度も聴いた曲に心を震わせます。

お笑い番組で、
知ってるネタが始まった瞬間に盛り上がるでしょうか。

何度か見たことがあるネタと、
新ネタをみるのでは、
知らないネタを初めて見る時の方がワクワクします。

何度か見たことある映画と、
初めて見る映画ではどちらに
感情移入できるでしょうか。

初めての映画を観る時の方が、ドキドキすると思います。

でも、音楽だけは違う。

ライブで最新アルバムの聴き馴染みない曲が続いた後、
有名曲のイントロが流れて
会場が一瞬で熱気に包まれるあの感じ、
不思議ですよね。

きっと、音楽には
僕たちが紡いだ日々とその記憶や感情が深く刻まれていて、
数分間に刹那が詰まっているから
記憶のトリガーが引かれるのかもしれません。

おしまい

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