僕はいま、岐路に立たされている。
目の前にはようやくデートに誘えた美女。
カジュアル過ぎず、
初デートにはちょうどよい
静かな雰囲気の
お洒落なイタリアン。
今宵の舞台は整った。
いつだってそうだ。
勇気をだして誘ってみることが大切である。
僕の前に道はない。僕の後ろに道はできる。
さあ、パーティーの始まりだ。
いいか。注文はスマートにするのが鉄則だ。
決して慌てず、慣れない素振りなんて
見せてはならない。
ここは、せっかくなら
人気NO,1メニューのピザを食べよう。
ん?待ってくれ。
僕の中の金田一がざわつく…
きのこと生ハムのピッツァ…?
一旦落ち着こう。冷静になれ。
最近忙しかったし少し疲れているんだ。
せっかくのデート。疲れていては台無しだ。
気持ちを新たにしていこう。
もう一度メニューにゆっくり視線を落とす。
『きのこと生ハムのピッツァ』
メニューを凝視するが確かに書いてある。
待て。まだ焦るときではない。
目の前の美女を前にして『ピッツァ』と発するのは何とも恥ずかしいではないか。
ピザはまだしも『ピッツァ』って。
『ツァ』ってなんだよ。
人生でもそんなに発音したことないよ。
サンドウィッチマンじゃあるまいし。
ここはきのこと生ハムの『ピザ』
に置換するべきか。
いやいや。
それでは英語の授業で、
敢えて日本語っぽく音読して
照れ隠しをしていた時代から
僕は何も成長していないではないか。
だからいつまで経っても
英語が喋れるようにならないんだ。
それともメニュー名を指さし『これを下さい』
とクールにいうべきか。
いや、待て。
そんなことでいいのか。
まるで、頬杖を突いて
窓から外を眺めることが
カッコいいと思っていた
中学生のころのようではないか。
ならばしょうがない。
きのこと生ハムの『やつ』とでもして
手打ちにしようではないか。
あまい。
『やつ』なんてお下劣な言葉を使っては
印象が悪くなる。
よく考えろ。
こんな所で屈するほどやわじゃない。
今宵のパーティーは始まったばかりなんだ。
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よし、注文しよう。
『すみません、明太子のパスタお願いします。』
おしまい