『男ともだち』は第151回直木賞候補、
第36回吉川英治文学新人賞候補にも
なった千早茜さんの小説です。
本書は、主人公のイラストレーター
神名葵を中心として、
同棲中の恋人彰人(あきひと)、
愛人の真司さん、
大学の先輩ハセオとの
男性関係の模様が描かれています。
主人公である神名は
同棲中であるにもかかわらず、
真司さんと不倫したり、
正月を男ともだちのハセオの家で過ごしたりと、
自由奔放な女性です。許せん、、、。
ーーーまいど。ご活躍なにより。
という突然のメールをきっかけとして、
7年振りにハセオと神名が
再会するところから
物語は展開して行きます。
ハセオは神名が通っていた大学の
サークルの先輩であり、
大学生の頃ハセオと神名は
サークルの部室で過ごしたり、
溜まり場になっていた
ハセオの部屋で酒を飲んだり、
麻雀をしたりと、
お互いが景色の一部となってしまう
くらい一緒の時間を過ごしていました。
恋人ではなく「男ともだち」として。
一方、
同棲相手の彰人は
性格温厚、
彼女の神名に頼ることなく
朝は自分で弁当を作り、
30分以上掛けて自転車で通勤する、
そんな模範的な生活を送る社会人です。
イラストレーターという
彼女の特殊な仕事の状況を
なるべく把握しようと努力し、
神名の乱れた生活リズムを指摘するなど、
うん、「いい人」感満載。
また、医師で不倫相手の
真司さんも登場します。
大学付属病院の勤務医であり、
日本人離れした顔立ちに
クセ毛と髭が似合って、
一見男っぽいが、
笑顔に愛嬌が滲む甘い雰囲気がある。
医師でイケメンは罪なんよ。
大学付属病院勤務医の年収表は以下の通りである。
年齢層 | 医師の平均年収(男性) | 医師の平均年収(女性) |
---|---|---|
30~34歳 | 584万円 | 567万円 |
35~39歳 | 786万円 | 642万円 |
40~44歳 | 974万円 | 844万円 |
45~49歳 | 1,204万円 | 938万円 |
50~54歳 | 1,346万円 | 1,404万円 |
55~59歳 | 1,505万円 | 842万円 |
60~64歳 | 1,768万円 | 800万円 |
65~69歳 | 1,853万円 | N/A |
70歳~ | 1,058万円 | N/A |
んんん、、ひもになりたい。
そこで、作中の彼らの振舞いから、
どのような男性がモテるのか
考えたいと思います。
「いい人」なだけではモテないという哀しき現実
彰人は上記のように
「いい人」感満載です。
恋愛市場ではさぞかし好物件だろうし、
2人はきっとラブラブなんだろなー!!
なんて考えてしまう。
否。男女の関係はそんなに甘くない。
神名と彰人の関係は冷め切っています。
キンッキンに。
もうアサヒスーパードライかよ
ってくらい。
「いい人」はあまりモテない現実がある。
彼女ができたとしても
なかなか長続きしない。
なぜだろう。
ある人は言いました。
「いい人である以外の魅力がないから。」
残酷だけど、真実だと思う。
「いい人」は
世の中にはたくさんいるんです。
だから残念だけど、
「その人」じゃなくてもいい。
他に惹きつけて離さない魅力が
ないからこそ、
「いい人」として括られてしまう。
僕自身、学生のころに初めて
彼女ができた時は、
彼女のたわいもない話を
一生懸命に聞き、たくさん褒め、
浮気もせずにとても大切にした。
彼女のわがままに嫌な顔一つせずに
付き合い、
連絡がくれば返信もすぐにして、
彼女の為に時間も捻出した。
その結果、すぐに振られた。
当時の僕には意味がわからなかった。
こんなにも大切にしているのになぜ
振られるのかと。
ネットの恋愛記事には、
誠実さが、優しさが大切と
書いてあったではないか。
あの時の僕には、
ネットの記事なんて
妄想だって幻想だって気づくのには
まだ若すぎた。
「女は優しい男が好き」
「大切にしてくれる人を好きになる」
そうなんでしょう、きっとね。
でも、鵜呑みにしてはいけない。
優しい男は尽くす男と同じではない。
大切にすることは
彼女に依存することではい。
なら、僕たちは
どうすればいいんでしょう。
答えは明確だった。
「別に失っても構わない」という
態度でいることだ。
誰だって大切なものは失いたくない。
宝物箱に入れてできれば
鍵を掛けておきたい。
だから
とっても覚悟と勇気がいる。
その覚悟と勇気がないと、
悔しいかな、
「いい人」に収まってしまう。
本書を通じて彰人に割かれた
ページ数は1割もないと思う。
本書のページ数が神名の脳内を
表しているとすると、
彰人は完全にどうでも「いい人」。
残念だけど。
一方のハセオ。
「ハセオは人を好きにならないでしょう。」
という神名からの質問に対し、
ーーー嫉妬も興味もわかない。
俺といない時に
何しているかなんて考えたこともない。
と答えている。
決して女性に依存しない。
「いい人」とは対極である。
数学的にはきっと対偶だ。
逆裏対偶を学校で習ったのは
このためだったのか。
来るもの拒まず去るもの追わずの態度は、
気持ちの疲れた女性にとって居心地が良い。
そしてどこか爛れた空気を身に纏い、
それが甘く苦く香って
ある種の女性を否応なく惹きつけ、
いつもどこおなく女の影がある。
彰人とは全然違いますね。
ただの「いい人」では
纏えない。
魅力の正体を垣間見た。
彼女にナメられたら、僕たちに未来はない
彰人は作中で、
他の男と躊躇いもなく遊ぶ神名を放任し、
朝帰りしようとも咎めず、
彼女の自由奔放な行動を許し、
彼女に対し不満が溜まっても
自分の中に溜め込み見ないふりをして
言いたいことが言えない。
一度、彰人が神名にハセオのことを
尋ねた際、
神名は「男ともだち」と答えた。
それに対し彰人は
「男ともだちか」と小さく繰り返し、
「なんかずるい響きだなとちょっと思って」
と一言言っただけ。
これは完全にナメられますね。
「男ともだち」との発言に
反応したら、
器が小さい男になってしまうのではないか。
なんて思ったんだろうか。
それは器の大きさなんかじゃない。
「失っても構わない」という
堂々とした態度と勇気、覚悟が
足りていないだけだ。
彰人は神名に心からぶつかれば
良かった。
それが、相手を一時的に傷つけようとも。
いい人の殻なんて破ればいい。
破った先にこそ、きっと
真の魅力があるはずだから。
誰かを愛するためには、
「そんなんだったらもういらない」
そう言える覚悟をもつ必要がある。
ナメられることは、
尊敬されないことと同義であり、
女性は尊敬できない男性に対して
特別な感情を抱けない。
よく女性が好きな男性のタイプを
尊敬できる人
と答えるのは真実です。
なんでもいうことを聞く男性を
女性は、下に見て
最終的には完全に主導権を握られる。
彰人は神名に心の底では見下され、
主導権を握られている。
作中、神名は、
ーーー私ははじめて自分が彰人を見下していたことに気がついた。
と述べている。
神名は仕事の忙しさも理由の一つとして
同棲相手の彰人が朝出勤する際に
弁当を作ったりなどしない。
でも、真司さんから一方的に
呼び出されたら
仕事の予定が詰まっていようと迎うし、
ハセオからの誘いにも基本応じる。
全く態度が違う。
興味のない男に対しては
ゴミのように扱う一方で、
興味のある男に対しては
どこまでも尽くしてしまう。
彰人には確立した自己がなかった。
自己中心とは、
自分の中に確立した自己が
ある状態だ。
それが仕事であれ趣味であれ。
優先順位が明確だから、
彼女が優先順位の最上位にはならない。
ハセオや真司さんは確かに自己中心だが、
確立した自己があり、
神名に対し一切媚びた態度を取らない。
自己を確立し、「失っても別に構わない」という
覚悟と勇気をもって
夢に向かって精一杯真っ直ぐに
生きたいと思う。
「軽さ」は、相手の心理的負担を軽くすることもある
ハセオや真司さんは、
自分の都合の良いタイミングで
神名に連絡を取り、
約束をしたかと思うと
当日の数時間前まで連絡をしなかったりと、
きままである。
約束の日までだらだら連絡を
続けたりなど、一切しない。
そして、一々発言が軽い。
だって、7年ぶりのラインが、
ーーーまいど。
って。
ハセオ半端ないって。
そんなんできひんやん普通。
7年て小学生が1人仕上がるよ。
久しぶりー!元気?
が敗北した瞬間を目の当たりにした。
そして、ハセオも真司さんも、
返信が返ってこようと来なかろうと
気にもとめない。
この軽やかさが、
相手の心をも軽くします。
普段はおちゃらけていても、
本当に大切なときにだけ、
真剣になればいい。
『男ともだち』を読んで、
僕もハセオのように軽やかに
生きようと思いました。
おしまい